今回のテーマは「みぢかにほしいコミュニティ」である。鈴木理己代表からJIA港地域会とMASセミナーの趣旨説明と共に「近所づきあいについてオランダは世界でトップで、日本は22位、オランダはその狭い土地であるが故に、干拓という共同作業と人口密度の高い地域性が影響しているとのこと。日本は農耕型コミュニティがあり、以前は向こう三軒両隣のお付き合いがあったが、最近はその関係が弱くなっている。」と話のきっかけを提供した
最初のプレゼは、今井均氏の「新しい近隣コミュニティ萌芽のための場所づくり」である。
氏は、1968年の新建築住宅設計競技で、建築家・吉村順三が出した課題、「6世帯のための住居」を紹介した。この時代において既に希薄になっていた近隣関係をテーマにした意味合いを指摘した。日本の中世の村での近隣関係と高度成長時における団地の近代コミュニティを比較説明した。当時の近隣コミュニティを形作っているエレメントとして(商店主、小僧さん、おばちゃん、職人、孫と祖父母、電話、給与袋、TV)を紹介した。それらは今日では、見ることが少なくなってきたが、改めて、その役割の大切さを感じるとのこと。
当方からの質問「みぢかなコミュニティ再生の手がかり」については、「そこに住んでいる商店主」がキーパーソンであるとのこと。売り買いだけではなく、そこには会話があり、情報の伝達があり、コミュニティの見守り的役割を持っている。それを何らかの形で再生させることが現代において必要であるとの意見である。
次は、村上晶子氏の「教会を参考に紐解いてみる」である。コミュニティと教会を考えるにあたって、コミュニティとは何か?「同じ目的であること」「相互扶助」「双方向」「自主性」であるとのこと。そして教会とは神の名によって集まる人々であり、食卓を囲み分かち合う典礼行為であり、コミュニティの原点と説明した。コミュニティの手本事例として、「頭ガ島天主堂」をあげ、10年かかって皆で作ったという教会づくりを通した相互扶助の紹介、そしてドイツの教会のコミュニティ事例として、2つの教会の紹介があった。いずれも近代建築で、古典的なプランではなく、人が集まる場を意識したプランでありデザイン的にも優れた作品である。村上氏自身の設計事例として、カトリック神戸中央教会が紹介された。ワークショップによって案を練ったもので、阪神淡路大震災後における、3つの教会と社会活動センターを担ったものであり、人の繋がり、コミュニティ育成がポイントであったとのことである。今後の教会の在り方についての質問に、「地域との繋がりを形成する場であると共にフェイストゥーフェイスで集まれる場であることが求められる、これによりみぢかなコミュティが生まれるとのことである。
大倉冨美雄氏は、みぢかなコミュティ―が生まれない理由・原因として「知識、世代、職業、地域、ネット)の格差」があることを指摘した。その実態事例として絵画教室の風景を示した。ここの参加者は絵を上手くなりたいということよりは、ここに来れば仲間に会えるという人の繋がりに興味があるようである。高齢者施設芝浦アイランドの食堂の風景では女性は楽しくしゃべりながら食事をするが、男性は一人で黙々と食べる姿がある。高校生がクリスマスイベントとして演奏をしている風景、そこにはイベントの一方通行的提供があるだけで高齢者の受け身の姿が見える。そこには能動的なコミュニティは存在していないとのこと。地下鉄の風景では、皆がスマホを操作し、個人がスマホを通して外と繋がっている状況、しかし限られた情報を通しての繋がりであり、みぢかなコミュニティとは到底言い難いと説明した。
それではどうすれば良いのか?という質問に対して「具体的な答えは無いが、少なくとも、人はコミュニティを欲しており、能動的な枠組みが必要である」と応えた。
田口知子氏は「コミュニティのために建築にできること」をテーマに、横浜市の公田町団地の訪問事例を説明した。築50年1160世帯が住む賃貸住宅であり高齢化率40%を超え、孤独死・買い物難民問題が発生している状況。それに対し平成20年に自治会を中心に、団地の見守、支え合い体制をつくるため「NPO法人おたがいさまネット」が設立された。そして撤退したスーパー跡を改修し日常品を売る地域の場「いこい」が開設された。お茶や軽食も食べられるようにしたところ、毎日30~70人の方が利用する住民のよりどころとなった。運営スタッフが会話の中で見守りができる。この場所を核として、青空市やビヤガーデンなど様々なイベントが企画運営されており、拠点の大切さが理解できる。毎月発行される「いこい」通信によって住民への情報提供、フィードバックがなされている。この訪問調査から、地域の居場所として、①誰にでも開かれていて歓迎してくれる人がいる。②ガラス張りで外部との繋がりを持っている。③外部空間にはベンチなどが配されており休息ができる。④食べることを目的としており立ち寄りやすい。⑤ボランティアスタッフにより清掃がなされ清潔である、などを挙げた。併せて氏の作品事例として雪谷大塚の6世帯コーポラティブハウスの紹介があった。設計と施工プロセスに中に地鎮祭やお花見会などのイベントを通して竣工時には既にコミュニティが形成されているとのことである。建築家の役割の拡がりの質問に対しては、「ハードな設計だけをやってはダメで、コミュニティ形成のソフトにも関わっていくことが求められる」と応えた。
筆者(連健夫)のプレゼは「まちづくりからコミュニティを創る」である。港区まちづくりコンサルタントとして関わっている赤坂通りまちづくり協議会の活動を事例として紹介、美観活動としての芝桜植え、落書き消しワークショップ、まちづくりビジョンづくりワークショップ、通りの改修計画案等である。港区にはまちづくり条例があり、まちづくりに関わる市民がまちづくりのルールを作り、条例として地区計画まで設定することを可能としている。建築基準法は全国一律で地域性を担保できないが、条例は地域の特性をまちづくりに活かすことができるのである。この中で、大切なのは協議調整の場である。デベロッパー等の建築計画側がまちづくり協議会に来訪して計画を説明して意見交換をする機会が持たれるようになってきたことである。協議調整の場は義務ではなく、そこでの要望について建築計画側は聞く必要はないのである。つまり計画側として要望を取り入れることは協議会に対して貢献することになる。事例では、協議会の要望を取り入れた修正案を示した状況に協議会のメンバーから拍手が起こった状況があり両者に良好な関係が築けているのである。良質や美しいといった定性的な判断基準は確認申請では無理だが、協議調整の場では有効に働くのである。この活動の中で近隣のコミュニティが生まれている。ワークショップや開発業者との協議調整の後の飲み会で、同じ立場のメンバーが自然に絆を深めるのである。
「街の清掃活動などを例に挙げ、行政に頼らず自分でできることは自分ですることにより近隣のコミュティが生まれる。」「自分のセカンドハウスをコミュティカフェなどに改修すると面白いのではというアイデアが浮かんだ」「コミュニティは面倒くさいという認識が近隣の繋がりを失うこととなった、あえて面倒くさいことをする、お節介をすることの大切さを感じた」などである。懇親会ではこれらの話題も含め色々な立場で個々の話し合いと交流ができ、また参加者のギター演奏もあり盛り上がった。
文責:連健夫
ご参加された皆様、アンケートへご協力いただき誠にありがとうございました。
ご協力いただいた方の中から一部をご紹介させていただきます。
© JIA 日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会