JIA港地域会日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会

JIA港地域会 活動報告

第29回 素材・光・建築

第29回 MASセミナー
2018年12月8日(土)
14:00~トーク、16:00~懇親会
日本建築家協会
JIA館1F建築家クラブ
報告者
田口 知子

建築の祖型という年間テーマに呼応して、建築の原点ともいえる「光・素材・建築」というテーマでセミナーを開催しました。建築の設計デザインに携わるものは、光、素材をどのように扱うか、その視点はさまざまです。自然光の固有の価値を考えたり、キリスト教の教会が発展させてきた光のデザインについて語ったパネラーの話は、時代を超えて建築が作り出すことのできるものの可能性を示していると感じました。参加者からの発言で、教育空間の子供に対する光の持つ意味について語った方がおられたり、東洋と西洋の光に対する考え方の違いなど、風土的、文化的な違いも考えてくださった方もおられました。
世界どこでも均質な製品を享受できる時代になった今、私達が逆に魅力を感じるのは、その場所、その時間にしかない唯一性のような体験にあると思います。そのためには、今建築を考える際、地域固有の素材、その場所の自然資源を大切に建築を作ることの意義をあらためて見直す機会になりました。

田口知子その場所にあるもの
田口知子

光と素材と建築、というテーマを考えたとき、ヘルシンキのテンペリアウキオ教会を思い出した。岩肌をハイサイドライトから落ちる光が岩壁を照らし、不思議な美しさだった。キリスト教の教会は光をどう扱うかということにテーマが置かれ建築技術の発展を招いた。現代建築でもその傾向は受け継がれていて、スイスのヴァルスにある温泉施設は現地の花崗岩を使って神秘的な光の空間を実現していたことを語った。私が感動する建築は、いつもそこの土地のルーツ、資源や文化に根差したもののようだ。それでは、と日本に目を向けてみると、雨が多く、湿気の多いモンスーン気候の中で、豊かな樹木の生育を背景に日本の建築は木と紙、土で作られてきた。内部空間は、雨戸、障子、ガラス戸、ふすまなど、重なる建具や、深い庇など、光を控えめに感じさせる内部空間は、低い目線で光をとらえる空間が多い。暗闇の中で映えるきらっと光る金箔など、光に対する繊細な感受性を感じさせる。時代を見通すためには、地域性や風土、場所の個性を見直し、そこから考え始める、という建築の作り方が大切なのだとあらためて思った。

今井均素材・光・建築
今井均

自然光が建築に及ぼす状態や変化のさまはみるものにとって最も根源的な魅力に充ちているものであろう。今回のテーマでは光と建築の状況からヒトが日常のなかで心理的に受ける状態に僕は注目したい。例えば今朝という始まりの陽光のなかでの食事は、『男はイチニチの中でいちばん正直になれる』という事実が確かにありそうである。この映画の台詞は社会的にもプライドを持って生きている男の心理を端的に表していて、朝の自然光のまえでは虚栄心や自尊心までもが影を潜め素直になれる、、僕らにしてみれば、食堂はそんな室内環境をもって計画されるべきであると、、まぁこんな具合に建築と光は環境を整え、ヒトを本来の素直な自分にもどす瞬間を演出しているといえます。
ところで最近はなやかな都心の地下室にある大手企業で打ち合わせをしたとき、僕としてはひどく気の毒な状況で仕事をしていると考えさせられてしまいました、あの空気さえも淀んだオフィスには一滴の自然光の入る余地もない、仏の中世の英雄ジャンヌダルクが地下牢に入るくらいならと、火あぶりの刑を選んだ心理を現代の経営者はどう思っているのか、、機能的には蛍光灯や機械換気で済んでいたとしても人間の心理面を考えれば、せめてドライエリヤからの木洩れ陽的な自然光をかれらに差し入れたい気分でありました。陽光と明かりはまるでちがうものなのに、、。

今井 資料

武田有左建築空間の光との出合い・・・
武田有左

初めて自分が手掛けた建物が竣工した時のことです。夜、照明が灯った空間に立った瞬間、これが本当に自分の設計した建築空間なのかと驚いた経験を今でも思い出します。それは、海藤春樹という気鋭の照明デザイナーと供に設計をした建物でした・・・自分が吟味をし尽くしたハズの素材や空間が、光の入れ方次第で、設計者自身が思ってもいなかった様相に変容するものなのだと。

このことを改めて認識したのは、コンピュータを使った設計を始めた時です。モデリングに加えて色や素材の設定だけでなく、吟味した光の定義を通してはじめて、自分が意図した建物の姿がディスプレーに映り込む・・・

駆け出しの頃に経験した二つの貴重な体験を通し、建築設計とは単にプランを描き素材の選定で終わるのではなく、建ち上がる空間に最も相応しい光を導くことであるという、建築家としてのスタンスが決定付けられました・・・


再生すると音が流れます。
音量にご注意ください。

大倉 冨美雄在伊経験からの類推
大倉冨美雄

在ミラノ、10年ほどになるが、北部イタリア人とのメンタルの相違はほとんど感じなかった。

デザイン的にも差異はなく、自分の才能がそのまま受け入れられてきたという思いがある。

でも、そこには「視覚」を軸にはしているが「言葉」から思考することが少ない、という職能上の体質も関わっていたかもしれない。更にこの50年、100年の技術の国際化、人間社会のグローバル化も人間性の差を判りにくくしてきたのかもしれない。

だから、日伊から見た欧州人の感性差を簡単に論じることは出来ない。何か人間性の深みにはまる契機が無いと、なかなか見えないのかもしれない。

それでも今、光・素材という建築の原点を限定的に意識すると初めて、これらと並べる形で国民性、精神性、造形力の原点というものが見えてくるようだ。それは、日本に比べれば少ない自然の脅威、そこにある建材への依存性(大理石などの石材による組み立て空間への強度の意識)などと、キリスト教義が生んだ逆説的な自己中心主義の跋扈である。

現代の建築家も機会があって設計の自由を得られれば、とんでもなく飛躍する自由さを持っているようだ。極端な例がザハ・ハディッドだったが、今回紹介したアンジェロ・マンジャロッティもダニエル・リーベスキンドも、時とチャンスを得て、光や、潜りの空間で日本人より大胆な提案をする可能性を暗示したようだ。

大倉 資料

村上晶子建築の使命と光
村上晶子

今回は建築意匠のテキストの「光について」を引用し、後半は教会建築と光の関係、建築の素材としての光について、自身の設計した教会の建物を通して話した。

「およそ光があるということが、美にとっては欠くべからざる条件であり、もっとも美しいものでさえ、光が都合の良い位置にあることによって、さらにその美しさを高めるのである。しかし他のなにを置いてもまず、光の恩恵によってその美しさが高められるのは建築物であって、じつにとるに足らぬ建物でも、光の具合いかんによってはこのうえなく美しい対象になるのである」これは19世紀前半の哲学者ショーペンハウアーの言葉である。(Arthur Schopenhauer1819西尾幹二訳『意志と表象としての世界』第二巻)とるにたらない建物ですら光によって美しくなる、それほどにひかりに力があると述べている。彼はさらに、建築の使命は光の本質を顕現させることだとも述べている。建築術には重力や剛性を示す使命があると同時に、重力や剛性にはっきりと対立した光の本質をも浮き立たせる使命がある。光によって建築が美しく見える事、光の変化によって建築の印象が変わること、建築こそが(光の本質)を顕現させること。建築は光の状態によって印象を変えていく。設計では、空間のスケールや方向性、素材を確定することができても、刻々と変わる太陽の動きそのもの、天候による光の量の変化をコントロールすることができない。人間の視覚環境適応力は驚異的に大きいので設計では光の量の変化より、光の質、光の落とし方のコントロールが重要になる。ラスキンは建築の七燈の中で建築家は光と影を扱うべきだとも言っている。

司会:湯本長伯

建築と光、シェルターを彩るものは様々です。

始まりは、様々な危険から身を護る閉じた空間=室内空間でしたが、洞窟住居から暫くは内部は暗いものでした。建築が発展し多様化する中で、光や通風・音が大切になりますが、その辺りから近現代建築の意味と魅力が増して来ます。近世には大きな住宅から様々な建築種別が分離独立し、光も通風も装置も、所謂FFE(家具・仕上げ・機器設備)も大いに働き始めます。

光があることで、空間を感じ他者の存在を感じることが出来ます。光は存在を感じさせ存在を其処に在らしめる大事な要素です。かって建築の内部は暗いのが当たり前でしたが、大型化し進化していく中でより豊かな光を得て、建築自身も多様になって行きました.

29回は光を主調にしたコメントが多かったのですが、一点に集中する光もあれば、平行に差し込む光もあり、その多様さは建築の多様性と豊かさに繋がります。ユービキタス・遍照という言葉は、神の愛が誰にも平等に且つ地上の何処にも、あたかも太陽の光が地上を遍く照らすように、降り注ぐことを示すキリスト教の言葉ですが、インターネット時代には別の意味を持ってしまったように、建築空間を彩る光も素材も、これから更に変化し多様化して行くでしょう。そのことを、皆様と共に楽しみたいと思います。

当日の模様

MAS第29回の模様1 MAS第29回の模様2 MAS第29回の模様3 MAS第29回の模様4

関連資料(PDF)

  • A4版(セミナー概要、アクセス方法など)
  • A3版(当日講演するテーマについて建築家からのメッセージ)

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