JIA港地域会日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会

JIA港地域会 活動報告

第36回 コロナ禍を経て・・・ウチ(家)を感じる生活と装置

第36回 MASセミナー
日時
2023年6月3日(土)
14:00~
場所
日本建築家協会 JIA館1F建築家クラブ
パネリスト
今井均田口知子連健夫
村上晶子宮田多津夫武田有左
その他の参加メンバー
大倉冨美雄
司会・進行
湯本長伯

今井均ウチという生産の環境から生まれるものの再構築をめざせ
今井均

若人はいつか自分自身と向き合わなければならない時がくる。その日のために日々の研鑽や努力があると思うが、最近はそういったことを受け入れ、育てる社会の環境という構造が限りなく小さくなった様に僕には思える。それは明らかに若い人の責任ではないだろう。効率と目先の利益追求ばかりを求めた現代社会がはびこり、若者は使い捨てともいえる環境の中に置かれ、大きな目標を見失っていると僕には思える。社会をリードする大人達の責任と言えるだろう。その社会の中に自身のウチと呼べそうな労働環境が見えてくれば、若人の目標も見えて来るだろう。かつて輝かしい近代の時代には労働という言葉がある威厳を持っていた様に思う。そこには様々な階層の中でそれぞれが自分の居場所をわきまえて、その人なりの世界観のなかで生活が構築され希望があったはずだ。しかし現代社会は若者を育てるという職場という環境があまりに見えていないのではないか、、今こそ理屈を超えた目標を持てる様なウチという温もりのある職場を再構築すべきであろう。受け入れる側のウチという環境の見直しとその覚悟を示す時で有る。若者もその中で達成する目標を金銭とは別次元で持つことが可能性を生み出すと思うのであるが如何であろうか、、。

田口知子これからのうち(家)に大切なこと
田口知子

「家」とは何か。プライバシーが守られ、自由にくつろぎ、食べること、寝ること、家族と過ごす安心できる場所、と考いう役割をあたりまえのように期待してきた。しかしコロナ禍を通して、家に閉じ込められる、仕事場にもなるという可能性を体験した。都心の家では、往々にして家族みなで仕事をしつつ生活するには広さが十分でない、という事態にも直面した。仕事と暮らしが近い、ということは、生活全体の在り方を変えていく必要がある、そこに次世代の生き方のヒントが隠れているのではないかと感じている。先日たまたま立ち寄った富山の散居村の風景や、古い養蚕農家の世界遺産の五箇山集落を見て、今回のテーマを深く考える機会になった。働くこと、住むことが一緒になって土地と強くつながっているという生活がそこにあった。近代はその生活から脱出し、街に暮らし自由になった。そして貨幣経済が私たちのコミュニティーを解体し、自然からの疎外、人のつながりの分断が問題であることに気づきはしめたアフターコロナの今。人の健康になるために必要なこととして、地域や土地につながる住まいの可能性について考えたことをお話した。家が、プライベートな閉じた器ではなく一部に小さくパブリックな機能、仕事や地域にかかわる部分を持つことが、充実した人生のための器となり、街が豊かになるための器となっていくのでは、と期待している。

連健夫ウチを楽しむ、マチを楽しむ
連健夫

コロナ禍を経て何が変わったか?自分のことを考えてみた。ウチ(家)で仕事をすることが多くなり、気持ちよく過ごそうと色々工夫するようになった。やってみて良かったのは、ベランダに日除けを付けたこと。これで利用度が格段に上がった。ベランダの形が、不整形なので庇は難しいと考えていたが、色々調べてみると既製品のパラソルで半分サイズのものがあった。しかも折りたたみ式。寸法をみると入りそうなので、購入して取付けてみるとピッタリ!色々使いたくなる。朝食、アフタヌーンティなど快適だ。生活習慣も変わった。昼食後の近所のお散歩だ。散歩で楽しいのは家のたたづまいを観ること。やはり建築家なので色々気になる。門塀が真っ黄色に塗ってある家、「派手過ぎる、街並みから観ると色のノイズだ、どうにかならないのかなあ」と手厳しい。イイのもある、デザインされたオープン外構で植栽も手入れされ、街並みに寄与している。住み手の工夫も感じ学びがある。ベランダの利用や街並みへの配慮、いずれもウチとマチとの間の空間がポイントである。昔の民家には縁側があり、そこでお茶を飲みながら世間話をする姿があった。コロナ禍を通して、改めて、ウチとマチとの関係性を楽しむ、考えてみるイイ機会になった。

村上晶子コロナ禍を経てうち(家)を感じる生活と装置・・私の場合
村上晶子

コロナの時を過ごして、居住空間と家族の大切さをあらためて感じました。幸い海辺のアトリエ(写真)と東京で2拠点でしたので、まるで引退したかのような静かな時間を過ごせました。北欧の人が言う4つの幸福の条件[居心地の良い部屋]・[語り合う友人]・[少しの緑(自然)]・[シナモンロールと珈琲]の実践でした。

ここではat homeという言葉を見つめてみたいと思います。at homeが表す状態は実存主義的に言えば【定位作用と同一化作用】です。つまり環境の中で自分の位置を決めることができ、その環境と同一化できることによってその環境は人間にとって意味あるものとなるのです。環境において住まう感覚とは元初的状態です。建築家ルイス・カーンの有名なスケッチがあります。そこには、ルームが建築の元初であり心の場所あること、自らの広がりと構造と光をもつルームの中で、人はそのルームの性格と精神的な霊気に応答し、そして人間が企て、つくるものはみなひとつの生命になることを確認すると述べられています。彼は、建築はルームをつくるところからはじまると言いました。自然と人間・双方向かつ同時的開かれる窓、沈黙と光を大切にしました。その機微の事例として、カーンのフィッシャー邸、吉村順三の森の中の家、ル・コルビュジエのロンシャンの礼拝堂を紹介させていただきした。

宮田 多津夫 人には帰るべき場所が必要
宮田多津夫

理想のウチは様々な考えがある。富裕層は、都心一等地の高層マンションを理想の家としているが、その現実は共働きで夫婦合わせて3000万円の年収なのだが、子育ては他人任せで、夕飯時まで子供を塾や保育園に預ける生活。これでは外見は理想のうちに見えるが、実態は子育て見向かないウチが出来上がっている。その結果、今朝【2023年6月3日】の読売新聞では、「子を持つ意欲、若者急減」と示し、出生率が過去最低1,26になり、晩婚:晩産化とコロナ禍が影響して子供を産めない家庭が増えているといっている。原因は生活費・教育費の負担により子供をあきらめている若者が多いという。建築空間が優れていても、社会が子供を産めない状況では、「ウチ」という空間は崩壊している。私の理想の「ウチ」は、盛岡出身の画家が描いた「マイホーム・カミング」である。そこに描かれた家は人を迎える設えがある。この画家は言う。「ウチには、やすらぎと、愛するものたちの自由の空間が約束されていなければならない。一人でしても、二人でいても、そうでなくてはならない。人には帰るべき場所が必要だ。そこから有益な歴史がつくられるべきだ。」

武田有左メビウスの輪の様に・・・
武田有左

今回も、会場の参加者の発言にハッとさせられた。家に居ても、学校や友達からのメールやメッセージ交換に落ち着くことが出来ないとの話だった。 その言葉に、世の中にインターネットが広まりだした当時、多忙な会社での業務から帰宅し、マンションのゲートを潜って自宅の玄関を開け、リビングを抜けて自分の部屋に入った処に、いきなりまた、世界中に繋がるインターネット空間が広がって居ることに、不思議な違和感を覚えたことを思い出した!

本来なら、外部の喧噪から一番遠ざかったはずの自分の部屋が、世界に開け放されているという不思議な感覚・・・嘗て家というものは、他者から心身共に家族や自分の身を隔離し、護ってくれるシェルターであったとすると、少なくとも今日では、心理的シェルターとしては機能しない空間であることを再認識させられた。

今日の我々は、まるでメビウスの輪の様にパブリックとプライベートが無限に絡み合う不思議な空間に暮らしていることを認識すべきだろう。その中で住宅だけでなく、都市や建築空間の在り様を、改めて定義し直す時代に立っているのかも知れない。

武田有左 資料

大倉 冨美雄「ウチのニ面性」に分けよう
大倉冨美雄

コロナは終わったのか?何が変わったのか?
会場の空気を和らげる気からも、「皆が寄り添うなんて厭よ」という家内の意見を例に、個人によって「『ウチ』への想いが違う」ことを伝えた。これはコロナ禍の前でも変わらない。一方、コロナで変わった事もある。評価の未定な自宅勤務の拡大、リアルへの再価値認識と逆のネット依存、人に依存する中小企業の倒産拡大や逆の人材不足、フリーランスの苦境、大手企業の人員削減と逆にIT職種への求人増、人口減下における若手の、未来への夢の減衰加速…など。
これらを考えると、建築家が一人でも十人いても、このような価値観を変えられるような問題ではない。経済最優先と既得権で出来上がった社会構造の大変革が求められている時代なのだ。
ここから建築家として「ウチ」を考える時に、はっきりと「ウチのニ面性」に分けて、意識する方がいいのではないか、と思うようになった。
つまり人間関係、社会問題を主軸に「ウチの主体性」から何か出来ないか、というのは普通の「建築家」には無理。そこに気を配るのはいいが、そこから現在求められている提案は、「建築家」が出来る仕事とは大きく離れる。
「建築家」こそが出来るのはそれらを理解した上で、「モノや空間を通して、寄り添う気持や安らぎの雰囲気を生み出す」ことだけだろう。とは言えこれでも、社会評価が無い上に、簡単な能力の問題ではない。だから、みんな逃げだす。
それでも結果として、そういう空間が生まれる事に対しては家内も認めている。

湯本 長伯コロナ禍を経てうち(家)を感じる生活と装置
湯本長伯

住まいの原型は、人の生活を支え囲い覆って造られる内部空間・建築空間です。甲羅の代わりに衣服を纏い、爪や牙の代わりに道具を用いる。その究極が家を造ることでした。人体の延長です。閉じられ護られていると、外から邪魔されずに独自のものを創り出せることも重要です。『ウチ』を持つこと持てることで、人は自分も持てるようになったのかも知れません。

『ウチ』は自分自身にもなり、その独自性多様性が人類の凄さにも繋がりました。次は、『ウチ』に籠らないことも大切かも知れません。

当日の模様

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アンケート

ご参加された皆様、アンケートへご協力いただき誠にありがとうございました。
ご協力いただいた方の中から一部をご紹介させていただきます。

第36回アンケート1
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待し参加されましたか?
建築家の考え、情報をお聞きしたい
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご入力ください。
宮大工の話からヨーロッパの話、最近忘れていたことを思い出しました。
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご入力ください。
皆さんのお話がバラエティに富んでいて、とても楽しめました。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご入力ください
無回答
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第36回アンケート2
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待し参加されましたか?
『家』はどこまで小さくできるのかに興味があった。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご入力ください。
人と人との関係性の大切さを再認識した。
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご入力ください。
無回答
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご入力ください
無回答
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
無回答
第36回アンケート3
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待し参加されましたか?
自由で多様な意見を伺えること。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご入力ください。
共感することがとても多い回でした。興味あるトピックもとても多い回でした。書きたいことが多すぎて・・・
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご入力ください。
オンラインの開催は、やらないより良かったですが、やっぱりリアルな開催は良いですね!
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご入力ください
一人暮らしのためのHouseとしての家。今回、社会の中において恵まれた人々の”ウチ”についての話でした。社会の低辺にん生きる人々にとってどのような良い可能性があるのだろうか。
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第36回アンケート4
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待し参加されましたか?
連先生からお声かけ頂きました。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご入力ください。
Houseについて、自分のことをあらためて考えました。デンマークでの体験を話しましたが、私も含め家が寝るだけになっている方が多いことを知り、もったいないなと感じました。もっと考えよう!
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご入力ください。
皆さんそれぞれ家や部屋にちての考えがあって意識がどこに向いているのかによるのだなと思いました。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご入力ください
日本の家、部屋のありかた。(都心、地方では?)
日本らしい欧米にあこがれない部屋は?カベにアートが飾れない問題
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第36回アンケート5
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待し参加されましたか?
「ウチを感じる装置」にどんな意見が交わされるのか興味がありました。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご入力ください。
ウチ=心のより所。小さなつながりを大切に、暮らしが一緒にある住宅が理想ですが、この年齢で中々庭や畑のある家に映るのは難しいかな。
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご入力ください。
楽しいお話も多くて良かったです。全員(参加者)の発言があるセミナーはユニークで参考になりました。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご入力ください
色々なテーマがある方が老齢期には頭のマッサージにもなってありがたいです。
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第36回アンケート6
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待し参加されましたか?
今井さんは元気かな?
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご入力ください。
houseとhomeの違い。スマホとPCの世界に浸っている人には、homeもroomすら必要ないのかもしれない。Spaceがあれば充分で。スタバやファミレスでPC見ている人は、幸せそうには見えるか。
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご入力ください。
天気はよくなって良かった。皆さんシリアスな話で緊張した。自分の話は笑いをとれなかった。残念。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご入力ください
すごくせまい範囲の町の話。港区、渋谷区・・・。
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第36回アンケート7
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待し参加されましたか?
建築家として活躍する人のお話を聞けること。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご入力ください。
HouseとHomeの概念については今まで考えてこなかったことなので興味深かった。Homeは物だけでなく繋がりの中にも存在するのだと知れてよかった。
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご入力ください。
「自分らしさ」を出した家具には愛着が持てるということを聞いて納得した。自分のそのように家にある物に愛着を持てれば、家が好きになれるのではないかと思った。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご入力ください
無回答
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第36回アンケート8
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待し参加されましたか?
設計される方々が「ホーム」をどのようにとらえているかについて知ることができるかと思いました。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご入力ください。
家のあり方が、一人一人の人生の中で大きな意味を持っていることを改めて感じました。
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご入力ください。
みなさん全員の意見が大変興味深かったです。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご入力ください
インテリアのトレンドはどのように生まれて来るのでしょうか。
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第36回アンケート9
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待し参加されましたか?
過去参加させて頂いている中で建築家の方々とその他様々な職業の方々との共通点や相違点を感じとりにきました。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご入力ください。
家の面積を大きく確保したお宅や、テラススペースのあるスペースなど、自然と一体化できる空間があることだけでも、こころが落ち着くhomeになること。
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご入力ください。
ドイツやデンマークなど、日本と北欧の文化の違いから感じられる利便性や不便ではあるものの、そこから生まれる暮らしの工夫のお話がおもしろく新鮮でした。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご入力ください
無回答
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい

関連資料(PDF)

  • A4版(セミナー概要)
  • A3版(当日講演するテーマについて建築家からのメッセージ)

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